「社長、今期はかなり利益が出そうですね。税金で持っていかれるくらいなら、決算前に社用車でも買い替えましょうか」
「少しでも税金を減らしたいから、今すぐ全額損金で落とせる保険はないか?」
決算が近づくと、経営者仲間や一部の税理士との間で、必ずと言っていいほどこのような会話が交わされます。そして「よし、それなら少しでも経費を使って節税だ!」と慌ててお金を使い始める。経営者としてはごく自然な感情かもしれません。自分が汗水垂らして稼いだ利益です。それを国にただ持っていかれるのは面白くない、というお気持ちは痛いほど分かります。
しかし、現場で何百人という経営者様と向き合い、数々の融資や倒産の現場を目の当たりにしてきた「財務・融資の専門家」の立場から、あえて厳しい現実をお伝えします。
その「行き過ぎた節税」、あなたの会社の首を真綿で絞めていませんか?
今回は、教科書通りの綺麗事や、AIが書いたような無機質な一般論は語りません。経営の最前線で生き抜くための、泥臭くも確実な「お金の残し方」のルールです。会社を絶対に潰さず、社員を守り抜き、銀行から「ぜひうちで貸させてください」と頭を下げられるような強い会社を作るための、財務の「本当の話」をいたします。

社長様とお話をしていると、「早く銀行への返済を終わらせて、無借金経営にしたいんだよ」という言葉をよく聞きます。確かに「借金がない」という響きは心地いいですし、毎月の元本返済や利息の支払いから解放されたいというプレッシャーは、経営者にしか分からない重圧です。
しかし、銀行員や財務のプロの目から見ると、「無理をして達成した無借金経営」ほど恐ろしいものはありません。
なぜか。経営の絶対原則をお伝えします。
会社は「赤字」だから潰れるのではありません。「手元の現金(キャッシュ)が尽きた時」に潰れるのです。
どんなに損益計算書(P/L)上で莫大な利益が出ていようと、月末の支払い日に現金が1円でも足りなければ、会社は不渡りを出し、倒産します。逆に、何年連続で赤字を出していようと、手元に支払うための現金がたっぷりある限り、会社は絶対に潰れません。
借金をゼロにしたいがために、手元の現金をギリギリまで借入金の返済に回し、「通帳の残高は少ないけれど、うちは無借金だ!」と胸を張っている会社があったとします。もし明日、最大の得意先が倒産して売掛金が入ってこなくなったらどうなるでしょうか。急激な円安や原材料の高騰で仕入れコストが倍増したらどうなるでしょうか。新型コロナウイルスのような未知のパンデミックで、明日から突然売上がゼロになったら?
手元に現金がなければ、月末の社員の給料も、外注先への支払いもできなくなります。慌てて銀行に駆け込んでも、業績に陰りが見え始め、手元資金も底をついている会社に対して、銀行は冷酷なまでに融資を断ります。銀行は「晴れの日に傘を貸し、雨の日に傘を取り上げる」機関です。これは彼らが意地悪だからではなく、預金者から預かった大切なお金を守るという絶対的な使命があるからです。
だからこそ、私たちが強く推奨しているのが「実質無借金経営」という状態です。
これは「借入金がゼロ」ということではありません。「借入金の額を、手元の現預金が上回っている状態」のことを指します。
例えば、銀行から1億円の借り入れがあっても、会社の通帳に1億2,000万円の現金があれば、いざとなれば明日、全額を即金で返すことができます。実質的には無借金と同じ安全性を持っていることになります。
借入をしてでも、手元に「防衛資金」としてのキャッシュを厚く持っておくこと。わずか数パーセントの利息は、会社を倒産の危機から守るための「極めて安い生命保険料」だと考えてください。この「現預金」こそが、不測の事態から会社と社員を守る最強の盾になるのです。
では、どうすれば手元の現金を分厚くし、実質無借金経営に近づけることができるのでしょうか。ここで立ちはだかる最大の障壁が「節税」という罠です。
単純な算数の話をしましょう。
今期、会社で3,000万円の利益が出たとします。法人税などの実効税率を約30%と仮定すると、何もしなければ約900万円の税金を納めることになります。そして、残りの「2,100万円の現金」が、会社の利益剰余金(自己資本)として通帳に蓄積されます。
しかし、ここで経営者の多くが「900万円も税金を取られるなんて冗談じゃない!」と考えます。そして、決算月に慌てて3,000万円の高級車を現金で購入したり、不要な設備投資を行ったり、全額損金になる(と言われている)節税商品に飛びついたりします。
確かに、利益はゼロになり、税金もゼロになりました。社長は「してやったり」と思うかもしれません。しかし、貸借対照表(B/S)とキャッシュフロー計算書を見てください。手元からは「3,000万円の現金」が完全に消えてなくなっています。
税金900万円の流出を防ぐために、3,000万円の現金を社外に流出させ、会社の金庫をすっからかんにしてしまったのです。これを私たちは「節税貧乏」と呼んでいます。
優良企業や、何十年も不況を乗り越えてきた老舗企業の決算書を見ると、驚くほど節税をしていません。彼らは「税金は、会社を強くするための必要経費(コスト)である」と完全に割り切っているからです。
しっかり本業で利益を出し、正しく税金を払い、残った7割の現金を「自己資本」として社内に積み上げていく。これを何年も愚直に繰り返すことでしか、会社は絶対に強くなりません。
「税金を払うのは負け」という固定観念を捨て、「税金を払ってでも現金を残す」という覚悟を持つこと。これが、強靭な財務体質を作るための第一歩です。
自己資本を厚くし、現金を残していくと、銀行のあなたの会社を見る目が劇的に変わります。銀行は単に「売上が大きい会社」にお金を貸すわけではありません。銀行員が稟議書を書く際、彼らが決算書のどこを、どのような目線でチェックしているのかを知ることは、経営者にとって必須のスキルです。
銀行が最も重視する指標の一つです。簡易的には以下の式で計算されます。
(有利子負債 - 手元現預金) ÷ (税引後当期純利益 + 減価償却費)
分母にある「税引後当期純利益 + 減価償却費」が、その会社が1年間に生み出す「返済原資(キャッシュフロー)」です。
もし過度な節税をして利益をゼロにし続けていると、この分母が小さくなり、債務償還年数が「20年」「30年」、あるいは「測定不能」に跳ね上がります。銀行のシステム上、償還年数が15年を超える会社は「要注意先」に分類される可能性が高くなり、いざ新規事業や設備投資で勝負に出たい時に、融資を断られてしまうのです。
貸借対照表(B/S)の資産の部に「役員貸付金」や「仮払金」が多額に計上されていませんか? 銀行はこれを極端に嫌います。なぜなら、「銀行が貸した事業用のお金が、社長個人の生活費や遊興費に流用されているのではないか?」と疑うからです。
また、何年も動いていない不良在庫や、回収見込みのない売掛金を資産に計上したままにしていると、銀行は審査の段階でそれらを「資産価値ゼロ」として自己資本から差し引きます(実態バランスの修正)。決算書の見た目だけを取り繕っても、プロの銀行員の目は誤魔化せません。
最終的な当期純利益が黒字でも、それが「不動産を売却した」「保険を解約した」といった特別利益によるものであれば、銀行は評価しません。彼らが見ているのは「本業の事業モデルが、継続的にお金を生み出す力を持っているか」を示す「営業利益」です。
つまり、銀行から高く評価され、「無担保・低金利でも貸したい」と言われる決算書とは、「不明瞭な科目がなく、本業でしっかり営業利益を出し、税金を納めた上で利益剰余金を積み上げている決算書」に他なりません。
財務の構造を理解したら、次は「銀行との付き合い方」を根本から変える必要があります。多くの経営者は、銀行を単なる「お金の貸し手(ATM)」程度にしか考えていません。お金が必要な時にだけ頭を下げに行き、それ以外の時は極力関わりたくないと考えています。
しかし、本当に強い会社は、銀行を自社の成長を後押ししてくれる「最強のスポンサー」へと変えています。そのために必要なのは、絶対的な「情報開示」と「信頼関係の構築」です。
年に1回、税金を計算するためだけに作った数ヶ月遅れの決算書をポンと渡して、「あとはよろしく」という経営者。
毎月必ず翌月10日までに「月次試算表(月次決算)」を作成し、自ら銀行へ足を運んで「今月は目標に対してこれだけショートしましたが、来月はこういう施策を打つのでリカバリーできます」と、自社の現状を自分の言葉で語れる経営者。
銀行がどちらの経営者を信頼し、いざという時に全力で助けたいと思うかは明白です。
私たちは、経営者様に「経営計画書」の作成を強く推奨しています。
自社がどこへ向かっているのか(ビジョン)、そのために今年はいくらの売上と利益が必要で、いつ、どのような投資を行うのか。これをまとめた経営計画書を銀行の支店長や担当者にプレゼンテーションするのです。
「銀行は、情報を隠す経営者を最も警戒し、自ら情報を開示する経営者を最も信頼します」
都合の悪い情報(赤字やトラブル)も含めて、包み隠さず、スピーディーに報告する。この「嘘をつかない」「逃げない」という人間としての姿勢こそが、いざという時の融資の決裁を後押しする最大の要因になります。決裁書にハンコを押すのは、システムではなく「人(銀行員)」なのです。
ここまで、キャッシュの重要性、節税の危険性、銀行との正しい付き合い方について、やや厳しいトーンでお伝えしてきました。なぜ、私たちがここまで「現金を残せ」「財務を強くしろ」と口酸っぱく、熱く語るのか。
それは決して、決算書という紙切れの上の数字を綺麗に見せるためではありません。ましてや、社長個人に私腹を肥やしてもらうためでもありません。
すべては、「縁あってあなたの会社に入ってくれた社員と、その家族の生活(幸せ)を守り抜くため」です。
想像してみてください。資金繰りが苦しく、手元に現金がない状態の時、社長の頭の中はどうなっているでしょうか。
「明日の手形の決済資金をどうしよう」「今月の給料、足りるだろうか」「税金の支払いを待ってもらえないか」
そんなお金の不安で頭がいっぱいになり、夜も眠れなくなります。心に余裕がなくなり、職場の空気はピリつき、些細なミスで社員を怒鳴りつけてしまう。教育や設備に投資する余裕など到底なく、ただ目の前の現金を回収することに奔走する。そんな殺伐とした環境で、社員がお客様を心から笑顔にし、最高のサービスを提供できるはずがありません。
逆に、通帳に十分な現金があり、「実質無借金」の状態が完成していればどうでしょうか。
社長は日々の資金繰りの不安から完全に解放されます。どっしりと構え、3年後、5年後の会社の未来を考える「本来の経営の仕事」に100%のエネルギーを注ぐことができます。
不況が来てもビクともしない安心感があるため、社員に対して長期的な視点で教育投資ができ、業績が良ければ賞与としてしっかり還元できます。安心して働ける環境があるからこそ、社員は自発的に働き、お客様に最高の価値を提供し、それがさらなる利益となって会社に還元されるという「最強の好循環」が生まれるのです。
正しい財務戦略を実行し、会社に現金を残すことは、経営者の「愛」であり、最も尊い「責任」なのです。
未来の決算書は、今日の社長の「決断」で作られる
過去の決算書は、もう誰にも変えることはできません。
しかし、1年後、3年後、5年後の決算書は、社長であるあなたの「今日の決断」によって、いくらでも理想の形にデザインすることができます。
「売上至上主義」や「目先の節税」から卒業し、「キャッシュ至上主義」「自己資本の蓄積」「銀行との共存共栄」へと舵を切る決断です。
財務体質の改善は、人間の病気の治療とまったく同じです。
自覚症状が出た時(資金繰りがショートしそうになった時)には、すでに手遅れになっていることが大半です。早ければ早いほど、体力があればあるほど、打てる手は無数にあります。
もし今、あなたが以下のような悩みを一つでも抱えているなら、今日から行動を変えてください。
あなたの会社に必要なのは、過去の領収書を集計して税金の計算だけを代行する「作業屋」ではありません。
会社の未来の数字を共に描き、いかにして手元にキャッシュを残すかを真剣に議論し、資金繰りの不安から社長を解放するための「財務のパートナー」です。
会社を強くするための知識とノウハウは、私たちがすべて提供します。銀行との交渉の場にも、必要であれば同席します。しかし、最終的に「会社を変える」と決断し、行動を起こすのは、社長であるあなた自身にしかできません。
「利益はおぼろげな意見であり、現金は冷徹な事実である」
この言葉を胸に刻み、今日から確実な一歩を踏み出してください。私たちと一緒に、どんな不況にも負けない、本当に強くて優しい「実質無借金企業」を創り上げましょう。あなたの本気の決断を、私たちは全力でサポートいたします。