更新“なし”で出口を設計する定期借家。普通借家との実務差、メリット・デメリット、失敗しない運用まで。
賃貸経営の安定は、「入れる」×「続ける」×「出す(出口)」をどう設計できるかにかかっています。
このうち出口を明確にできるのが定期借家契約(定期建物賃貸借)。期間満了で自動更新せずに確定終了するため、建替え・売却・帰任予定など将来計画がハッキリしているオーナーに相性が良い契約形態です。
一方で、従来型(一般的)=普通借家契約は継続前提。正当事由が弱いと貸主からの更新拒絶は難しく、長期安定入居には向く半面、出口設計には工夫が必要です。
要点
・定期借家は更新なし。満了で契約終了(※要件と運用が超重要)。
・普通借家は継続前提。貸主からの更新拒絶には正当事由が要る。
・どちらが有利かは物件の計画(建替・売却・帰任・相続)と募集戦略次第。
項目 | 定期借家契約(定期建物賃貸借) | 従来型(普通)借家契約 |
契約方法 | 書面が前提(電子契約可)。「更新なし」の事前説明書面が実務必須。公正証書は義務ではないが紛争耐性UP | 書面が一般的(口頭も理屈上は可だが実務NG)。重要事項説明+契約書 |
更新の有無 | 更新なし。期間満了で確定終了 | 原則更新。貸主の更新拒絶には正当事由が必要 |
期間上限 | 無期限に設定可(自由設計) | 2000/3/1以後は上限なし(以前は上限20年) |
1年未満契約 | 有効(半年契約など可) | 有効 |
中途解約 | 原則不可(ただし居住用200㎡未満で転勤・療養・介護などやむを得ない事情があれば借主から申入れ可) | 特約に従う。合意・法定事由で解約あり |
賃料の増減 | 特約優先。改定は再契約時に見直しやすい | 事情変更により当事者が請求可。ただし「一定期間増額しない特約」があればその定めに従う |
終了通知(満了告知) | 1年以上の契約は、満了の1年前~6か月前に終了通知を出す運用が安全(紛争予防) | 規定なし(更新手続きは必要) |
ポイント:形式(書面・説明・通知)を外すと定期借家は“負ける”。ここが普通借家との最大の運用差です。
2-1 契約方式:説明書面の別紙が鍵
定期借家は**「更新なし」事前説明の立証**が重要。
契約書とは別紙で「定期建物賃貸借であり、期間満了で終了する」旨を交付・説明・署名押印(電子署名)までセットで残すと強い。公正証書は義務ではないが、高額・紛争懸念物件では有効。
2-2 更新:更新なし vs 正当事由
2-3 期間:自由設計
どちらも現在は上限なし。定期借家は帰任・建替え・売却に合わせてピンポイント設定できるのが大きい。
2-4 1年未満契約:定期でも普通でも有効
半年・9か月など短期賃貸が可能。定期借家1年未満は**満了通知不要(期間満了で終了)**とするのが通常運用。
2-5 中途解約:定期は原則不可(限定例外あり)
居住用200㎡未満で転勤・療養・介護等のやむを得ない事情があるとき、借主は中途解約申入れが可能(条項で効力発生日を明記:申入れから1か月経過など)。
普通借家は特約・合意・事情変更による増減・解約が比較的柔軟。
2-6 賃料改定:定期は“再契約”で見直しやすい
定期は再契約=新規契約なので、賃料・期間・原状回復・附帯サービスを都度再設計しやすい。普通借家は事情変更での増減請求。
2-7 満了通知:1年以上は通知の運用が命
定期借家の終了の実効性を高めるコア。1年前~6か月前に**書面(または電子署名付き)**で送達し、到達の証拠を残す。忘れると争点化しやすい。
オーナー側
メリット
デメリット/注意
借主側
メリット
デメリット
定期が“刺さる”物件
普通借家が無難な物件
*最終版は物件・運用・最新法令に合わせて調整ください。必要なら(有料)リーガルチェックまで対応します。
5-1 「更新なし」事前説明書面(別紙)
定期建物賃貸借(更新のない契約)に関する事前説明書
5-2 定期借家・基本条項(抜粋)
5-3 満了通知(終了告知)
件名:定期建物賃貸借の期間満了に伴う終了のご通知
賃借人 __ 様
契約期間:○年○月○日~○年○月○日
本契約は定期建物賃貸借であり、満了日(○年○月○日)をもって更新されず終了します。明渡し準備・引越日程の調整について、○年○月○日までにご相談ください。
通知日:__ 賃貸人(管理)__/連絡先__
5-4 再契約合意書(要旨)
× 誤解1:定期は通知不要
→ 1年以上は満了1年前~6か月前に終了通知を運用。争いを防ぐ“生命線”。
× 誤解2:定期はいつでも途中で出て行ける
→ 原則不可。居住用200㎡未満でのやむを得ない事由のみ。条項で手順と効力日を明確に。
× 誤解3:公正証書は必須
→ 義務ではない。ただし高額・紛争懸念なら有効。電子契約+説明記録で十分強い運用も可能。
× 誤解4:定期は必ず相場より安くしないと決まらない
→ 価値設計(家具家電・短期適合・ハイクオリティ清掃・即入居・Wi-Fi同梱)で相場並み~上振れの事例も。
7-1 「2年ごとに定期借家」は可能?デメリットは?
可能。ただし形式:説明・書面・通知を毎回確実に。単なる反復は**“普通借家と変わらない”誤解を招く。
コツ:毎回別紙説明に署名**、条件を微修正(賃料・設備・期間)し、再契約=新規の実体を担保。電子署名で事務負担を最小化。
7-2 普通借家を更新時に定期へ切替できる?
合意があれば可能。ただし借主にとって不利益変更になりやすい。代替メリット(賃料調整・設備改善・柔軟な期間設定 等)を明確に言語化し、合意書で残す。新規募集からの導入が最もスムーズ。
7-3 「短期賃貸借保護制度」と“6か月猶予”の誤解
旧制度は廃止済み。ネット上に古い説明が散在。競売・明渡し等の特殊局面は最新実務に通じた専門家へ。
募集・内見
申込・契約
期間中
満了前
形式とタイミングを制する者が“定期”を制す