「節税のために役員報酬を高くして、会社の利益をゼロにする」
この手法は、現在の税制と社会保険料率の下では、必ずしも正解とは言えません。
経営者が真に追求すべきは、「法人税を払った後の内部留保」と「社会保険料・所得税を払った後の個人手取り」の合算値を最大化することです。
本コラムでは、プロの視点からその計算式を解剖します。
役員報酬を決定する際、私たちは以下の3つの数値を同時に天秤にかける必要があります。
① 法人の実効税率(約23% 〜 33%)
法人の利益にかかる税金です。
利益800万円以下の部分: 約23%(所得税・住民税より低いケースが多い)
利益800万円超の部分: 約33%(ここが個人の税率との分岐点)
② 社会保険料の「実質」負担率(約30%)
健康保険・厚生年金保険料は、会社負担分と個人負担分を合わせると給与の約30%に達します。
上限の存在: 厚生年金は月額65万円、健康保険は月額139万円(※東京都の場合)で保険料が頭打ちになります。この「上限」を戦略的に活用できるかが鍵となります。
③ 所得税・住民税の累進性(15% 〜 55%)
住民税は一律10%ですが、所得税は5%から45%まで段階的に上がります。
社会保険料と住民税を合わせると、年収1,000万円を超えたあたりから、1円増やすごとに約43%〜50%が公租公課で消える計算になります。
多くの経営者が設定する「年収1,200万円」前後。実はここが、最も効率が悪いゾーンです。
理由1:所得税の跳ね上がり
年収900万円を超えると、所得税の税率が23%から33%へ一気に上がります。
理由2:社会保険料の「出し損」
この年収帯では社会保険料が上限に達しておらず、報酬を上げるほど負担額も増え続けます。一方で、将来受け取る年金額は一定以上は増えにくいため、支払う保険料に対するリターンが低下します。
シミュレーション比較:会社から出す原資が「2,000万円」の場合
パターンA:すべて役員報酬(2,000万円)で受け取る
→ 個人手取り:約1,250万円(負担率:約37.5%)
パターンB:報酬を1,000万円に抑え、残りの1,000万円を法人利益にする
→ 個人手取り+法人内部留保:約650万 + 670万 = 1,320万円(実質負担率:約34%)
結論: 無理に報酬を上げず、法人税(33%)を払って会社に残した方が、年間で約70万円も多くのキャッシュがグループ内に残ります。

単純な役員報酬の設定以外に、以下の手法を組み合わせることで最適化はさらに進みます。
「配偶者」への給与分散
一人で1,500万円取るよりも、夫婦で750万円ずつ分けることで、所得税の累進税率を下げ、さらに社会保険料の効率を高めます。
「旅費規程」の活用
出張日当は、法人側では経費になり、個人側では「非課税所得」となります。
社会保険料もかからないため、最も効率の良いキャッシュ移転手段の一つです。
「役員社宅」の導入
会社が家賃を負担し、役員から一定の賃料を受け取ることで、個人の可処分所得を実質的に押し上げます。
「退職金」への積み立て
現役時代の報酬を抑える代わりに、法人税を払った後の資金を「小規模企業共済」や「倒産防止共済」で積み立て、
将来、税制優遇が極めて大きい「退職所得」として受け取ります。
役員報酬は、期首から3ヶ月以内に決めなければならず、原則として1年間変更できません。
つまり、「期首のシミュレーション」ですべてが決まります。
今年の利益予測は?
近い将来、不動産購入などで個人の所得証明が必要か?
5年以内に事業承継や売却を考えているか?
これらを総合的に判断し、「法人税実効税率 33%」という防衛ラインを意識した報酬設計が必要です。
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